貝の隅っこ

話を聞く副業をしています。 初回無料、2回目以降3000円~。詳細は最初の記事にて。

乳がん忘備録【10】

駅を通り過ぎて、レストランが複数並んでいる商業施設に着いた。いろんなお店を通り過ぎて、結局は、何も胃袋に入る気がしない私のリクエストで、スープ専門店に入った。中はちょうど仕事終わりの会社員でいっぱいだったけど、ちょうど2人席があいていて、そこに落ち着いた。

 

スープに手を伸ばしながら、今、ここで色々話をしたら、人目も憚らず泣きだしてしまうかもしれない、とへらへらしながら言って、うん、と上長が頷いた。でも、じゃあ何を話そう、と思うと、自分でもよくわからなかったけど、とにかく、思いつくまま口を開いて、こんなことになって、もう、結婚もできない、私が結婚して、子供を産まなきゃいけなかったのに、親に申し訳ないとか、そんなようなことを話していた。なんだか、途中から、ガンの話から、少しズレていっていた。

 

上長は、結婚だけが人生ではない、といったような趣旨のことを言った気がするけれど、私にとって、結婚、出産は「普通」のことであり、それが「幸せ」だと思っていたので、あまり響いていかなかったし、慰めにはならなかった。

逆に、私は、上長が、どういうスタンスで、人生を生きているのか、気になった。私は、上長が、イライラしているところも、怒っているところも、見たことがなかった。それもそのはずで、上長は、今までの人生で一度しか、怒ったことがないということだった。その一度も、あれはひょっとして、怒りという感情だったのでは?と、あとから思ったくらいのものだった。

上長は、自分の考えはあまり参考にはならないと思う、と前置きをして、話をしてくれた。そして、やっぱりというか、人生2週目の上長の話は、言われたとおり、まったく私の参考にはならなかった。でも、そういう考え方もあるのだと、別次元の話を聞くように、たぶん、聞き流した。それからどんな話を経たのかは忘れたけれど、最終的に、私は、私に支給される会社からの交通費が変更されたことに、ぶぅぶぅと文句を言っていて、笑って、そういうことを話しているときは、ガンのことを忘れていた。