乳がん忘備録【36】
退院日になった。
退院日はちょうど、日曜日だったので、主治医の先生も、入院時の担当の先生も、挨拶ができないからと、前日のうちに会いに来てくれた。
姉が迎えに来てくれるというので、それまでにベッドの片付けをした。
テレビは、テレビカードを入れて見るタイプのものだったけれど、結構残り時間がある状態だったので、挨拶がてら、入院中ずっとよくしてくれた女性に渡しに行こうと思って、会いに行った。
女性は退院日が少し伸びたらしく、他の人からも、テレビカードを貰ったようで、やっぱりいい人なんだろうなと思った。私も渡したけれど、迷惑になってないといいなと思った。
「お元気で」
別れ際に、女性にそう言われて、この言葉は、こんなにも、意味のある言葉だったんだと思った。
私は、ええ、もちろんです、と言って、現に、私は手術が終わって、退院することができて、この世の春みたいに気持ちが元気だったので、私もお元気でいてください、と言った。
きっとまた会えますよね?と聞いて、その人は、地方から来ていて、しばらくしたら地元に戻ってしまうけれど、ここには通院するから、またきっと、会えると言った。
名前も、連絡先も聞かれなかったし、聞かなかったけれど、それはきっと、自分たちは大人で、自然とそうしないほうが、いいと思っているからなんだろうなと、思った。
私は、その女性に、不安でいっぱいだった手術の前日に、話しかけてくれたことに、改めて感謝の言葉を伝えた。