貝の隅っこ

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乳がん忘備録【26】

病室に戻ると、私は軽く行方不明になっていた。一度諸々の検査が終わったら、戻ってこなくてはいけなかったらしく、看護師さんにどこ行ってたんですか、と言われた。いない間に主治医の先生も様子を見に来てくれていたけれど、またあとで来ることになった。

看護師さんに、何をしていたのかを聞かれたので、相談支援センターに行っていたことと、手術をしなくても済む方法があると聞いたことと、それについて先生と相談したい旨を告げると、看護師さんは少し驚いたような顔になって、あとで先生に聞いてみますねと言ってくれた。どう考えても、手術前日にこんなことを言いだす患者は、迷惑だと思った。

先生を病室のベッドで待っていると、仕事帰りの姉が立ち寄ってくれて、私はさっき聞いた話を同じようにした。姉も驚いて、私は、手術をしなくていいならしたくない、と言って、姉は、とりあえず先生と話をしてみようと言った。

同じ乳がん患者さんからその話を知ったという経緯を話していると、主治医の先生と、入院中お世話になる先生と、先ほど相談した看護師さんが来てくれて、どうしたんですか、と先生が聞いてきたので、また同じ話を一からした。

話を聞いて、主治医の先生は、合点が言ったようになって、切らずに済む治療法はたしかにあって、以前やっていたという話をしてくれた。でもそれは、臨床試験をやっていただけで、それが治療の選択肢として正式に登場するのは、半年くらい先だということだった。半年、という言葉に、1か月でも、ガンが進行しているんじゃないかと気が気じゃなかったから、最初に診察を受けたときに、半年後なら切らずに済む方法がありますよ、と選択肢を出されても、きっと悩んだに違いないだろうし、きっと耐えられなかっただろうなと思った。

疑問がなくなって、納得して、騒がせてしまったことを謝ると、先生たちはよかったよかったと、帰っていった。姉は、先生を待っている間に、スマホでその治療のことを調べていて、先生の言っていたとおり、その治療がまだ実験段階で、研究中であるという記事を見つけていて、それがダメ押しのように納得した。