乳がん忘備録【33】
ベッドの上から動けない状態は、けっこうしんどかった。
左手の甲には、看護師さんや先生たちが格闘して入れた点滴の針がガッチリ刺さっているし、トイレに行かなくてもいいように尿管が入れられているので、どこか座りがよくなかった。
あと、枕の代わりに、タオルを重ねたものが頭の下にひいてあって、私は枕の位置は高くないと眠れないので、それもよくなかった。看護師さんが定期的にやってきて、血圧を測ってくれていたけれど、血圧はよりによって、針の刺さっている左手で測っていたので、締め付けられると、手の甲に刺さった針が抜けそうになって、でも抜けたらいけないので、右手て押さえつけて測っていた。ちなみにめちゃくちゃ痛かった。
夜になっても眠れそうになくて、このときのために持ってきたタブレットで、漫画を読むことにした。何冊か読んで、ちょっと時間を潰せたけど、読みたいと思うものがあまりなくて、飽きてしまった。
次にラジオをつけて、何か面白いものはやっていないかなとチャンネルを回した。
お笑い芸人のコンビがパーソナリティを務めている番組が耳に入ってきて、特にその人たちが好きだというわけではないけれど、それを聞くことにした。
「今日、初めてこれを聞く、って人もいると思うんですけど」
ぼんやりと聞いていたら、そんな言葉が耳に入ってきて、自分のことを言われた気がして、急に嬉しくなった。そう思ったら、あまり興味を持たずに聞いていた話も、親近感が湧いてきて、うきうきした。
ご意見お待ちしています、という、ラジオではお馴染みのフレーズが妙に耳に残って、思わず携帯でラジオ番組にアクセスした。
人生で初めての手術の夜で、しんどくて眠れないときにラジオを聞いて、でも聞いているうちになんとなく元気をもらったので、感謝の気持ちを伝えようとメールを投稿した。何通かメールが読まれたので、読まれるかなとドキドキしたけれど、さすがにそこまでクジ運はよくなくて、そのまま番組は終わった。
結局、眠れないまま、時間だけがゆっくりと経過していったので、早く朝にならないかなと思いながら、携帯を見たり、ラジオを聞いたりして過ごした。