貝の隅っこ

話を聞く副業をしています。 初回無料、2回目以降3000円~。詳細は最初の記事にて。

乳がん忘備録【22】

入院前日は、ちょっとだけ複雑な案件が来たので、残業をして、ギリギリまで仕事をした。後輩への申し送り事項を書き留めて、上長に挨拶に行くと、また上長がMTG室に誘ってくれたので、お言葉に甘えて話をした。

会話の途中、どういう流れかは忘れたけど、上長はふと思い出したように離席して、戻ってくると、お守りを差し出した。

「手術が終わったら、返してくれればいいから」

聞けばそのお守りは、上長が贔屓にする神様の、しかも現在進行形で上長の身を守っているお守りだった。その気遣いが本当に嬉しくて、私は、必ずお返しします、とそのお守りを受け取った。残業したおかげで、こんないいものを預かることができたと、とても心強かった。

でも、そのお守りは、私にはちょっとだけ、強すぎたようで、会社のエレベーターで下のフロアまで行くと、急に動悸が酷くなり、汗が噴き出して、頭がくらくらした。変なことを言っているようだけれど、事実なのだから仕方なかった。あんなふうに受け取っておいて、返しに行くとか、あり得ないなと思った。でも、どうしても、その場から動けず、会社から離れられず、悩んだ結果、結局足を引きずりながら、また上長のもとに舞い戻った。上長は驚いて、どうしたの、と聞いてきて、再びMTG室へと移動した。私は今起きた出来事を正直に話すと、上長は笑って、私が差し出したお守りを受け取った。このお守りは、上長をずっと守っていて、きっとこれからもそうだった。